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9月の舞台鑑賞記 [観劇]

9月は舞台鑑賞が続きましたので、まとめて感想を記載させていただきます。
興味のない方は流していただければと思います。

尚、感想の途中には物語の核心に触れる箇所がございます。
恐れ入りますが、自己責任においてお読み下さいませ。

◆9月文楽公演

・良弁杉由来
高貴な身分だった渚の方は、ある日ふとしたことから我が子・光丸を鷲に攫われてしまい、
その後30年もの間、我が子の姿を追い求めて諸国を彷徨い、
ようやくそれらしき人物に辿り着くというお話。

当初、渚の方は美しく着飾り、優雅に舞を舞う上品な役どころだったのに、
子供を捜し求めるうち、その姿から気品は消え失せ、身にまとうのはぼろぼろの着物、
白髪まじりの髪はほつれ、見るも無残な姿に…。
人形の首も、老女方から婆に変わっていて、痛々しくて見ていられないような姿。
一方の光丸は、鷲に落とされたのが東大寺の杉の木の枝。
お寺の住職に助けられ、お寺で教育を受け、良弁という立派な僧侶になっていました。
親子はどうにか対面を果たし、生んでくれた恩を忘れない良弁は、再会の瞬間から親孝行。
ここでは良弁がきらびやかな僧衣をまとい、渚の方の身なりとは正反対。
感動の再会の場面に、この視覚的に分かりやすいほどの身分の差が、
渚の方をますますみすぼらしくしてしまい、感動よりも安堵の気持ちになってきました。
モチーフとしてはおもしろい話であろうに、今ひとつ広がりがない気がして、少し残念な感も。
光丸が鷲に攫われるシーンは、大掛かりな仕掛けを組んだ鷲の人形がおもしろかったです。

因みに東大寺二月堂の前にそびえる良弁杉は、実際に見たことがありますが、
とにかく背の高い、立派な木でした。
もともと東大寺に伝わる伝説が、この作品の元になっているようです。

・鰯売恋曳網

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「伊勢の国に阿漕ヶ浦の猿源氏が鰯買え」の台詞でお馴染みの、
歌舞伎では勘三郎の当たり役とも言える、三島由紀夫原作の作品。
今回は織田絋二氏が文楽向けに演出し、咲大夫さんと燕三さんの作曲で新作として上演。
織田先生は私の友人の学生時代の恩師、今でも親しくされています。
私は直接の面識はないのですが、かなり身近に感じていたので、先生に敬意も表しての鑑賞。

鰯売りの猿源氏は、都で評判の傾城に一目惚れ。
恋わずらいで仕事も手に付かない息子を見かねた父や友人の協力で、
大名に化けて遊郭へやってきますが、実は傾城・蛍火は元々は一国の姫、
あるとき外から聞こえてきた鰯売りの声に恋をし、お城を飛び出してきてしまったのでした。
歌舞伎ではこの一連の流れがコミカルに演じられ、役者の表情や台詞に笑いが起きるのですが、
義太夫だとどうしてもテンポが遅くなってしまい、喜劇の難しさが前面に出てしまったようです。
例の台詞も、三味線に載せるとどうも収まりが悪いような気がして…。

ところが先述の友人に言わせると、本来はこうだ、とのこと。
今や「鰯売」と言えば、中村屋のお家芸的な演出になっていますが、これはもうサービスの域で、
確かに喜劇ではありますが、笑いだけを取るための作品ではないので、
細部まで辻褄を合わせ、違和感なく演じると、多少ゆったりになるのは必然なのでしょう。
例えば猿源氏の首は若男。
ここでイメージの差を感じましたが、鰯売りが大名に化けても周囲が納得するのであれば、
それなりに元々気品が漂っている設定だったのだ、と。

私は決して中村屋嫌いではありません(むしろ毎年コクーン歌舞伎を見るくらいです)が、
今回はちょっと先行イメージを植えつけられすぎてしまったかな、と思いました。
恐らく今回この演目をご覧になられた方も同じようなご感想をお持ちかと思いますが、
文楽ではこの演出が定着し、もう少し回を重ねたら、もっとおもしろくなると思います。

・秀州阿漕浦
殺生が禁じられている阿漕が浦で、母の病のために禁漁を犯す平治。
逃げる途中に落とした笠から足が付き、囚われそうになるも、
敵対する平瓦の治郎蔵という人物が、身代わりとなって連行される、
その裏に隠された真意とは…。

とは言え、文楽ではよくある「恩」の話です。
地味な演目ではありますが、短いながらもお家再興や恩、家族愛等が盛り込まれています。
上演も二十数年ぶりのようで、切も住大夫さんの語り、次世代への引き継ぎなのでしょうか。

この住大夫さんを楽しみにしていたのですが、御年86、分かってはいましたが…、
やはりどうしても老いが隠せない域に差し掛かって来られたようです。
もちろん技術的なものは、未だ唯一のものをお持ちなのですが、如何せん声量が…。
恐らく見る側も無謀な期待を持つべきではないと思いますので、
今の住さんにしかできない芸を期待しつつ、今後聞いていきたいと思います。

・桂川連理柵
一夜の間違いを犯してしまった14歳のお半と隣家の帯屋長右衛門。
意地悪な帯屋の姑とその連れ子、聡明な長右衛門の妻、
お半に言い寄る丁稚の長吉等、様々な人物が絡み合い、
喜劇の後に悲劇の待ち受ける演目。このところ上演回数が多い気がします。

何度も見ていますので、物語の感想は今更という気がしますが、
物語中盤のチャリ場はいつも楽しみです。
今回は嶋大夫さん、絶対外しはないなと思っていましたが、期待通り、
チャリとは言え、単にお客さんを笑わせれば良いというわけではなく、
お客さんの感情を舞台に引っ張りながら自然に笑わせる、その技法が素晴らしいです。
舞台で演者がへらへら笑っていても、見ている側は白けるばかりですから。

このチャリがあってこそ、段切りの悲劇が生きてきます。
幼い娘と心中する因果が語られ、しっとりとした儚さが印象的でした。

◆竹本住大夫 素浄瑠璃の会
「仮名手本忠臣蔵 六段目 早野勘平腹切の段」

文楽9月公演が千秋楽を迎えた後、日系ホールにて開催。
会の存在を知ったのは偶然でしたが、早々とチケット確保。
「勘平腹切」も何度も見ていますが、素浄瑠璃は初めて…だと思います。
聞いていると、舞台で目にした様子をありありと思い出します。
(仮名手本忠臣蔵のあらすじは、国立劇場のデジタルライブラリーにてご参照いただけます。)

ただ、先述とかぶりますが、やはり住さんに少々期待しすぎていた感が…。
もちろん、情感溢れる語りはたっぷり堪能できましたが、
物語の鍵となる姑の怒りから悲しみへの嘆きがちょっと弱いかな、と…。
昨年まではこの泣きの語りも、危なげなく楽しめていたのに…。
とは言え、随所に「さすが住さん」と納得させられる技も感じましたし、
良い意味で枯れた語りがますます板についてきているようにも感じましたので、
この先どう進まれるのかは分かりませんが、どうなっても良い方向へ進まれていると、
聞く側も信じて楽しんでいきたいと思います。
しかもご自身はお元気で、まだまだ舞台に立てるであろうことも分かりましたので、
住さんが舞台に出られるうちは、極力見に行こうと改めて決意しました。

公演の後は、日本文学者のドナルド・キーン氏との対談もあり、
私が知らない時代の文楽や、世界における文楽の認識等を聞くことができ、有意義でした。

◆叔母との旅

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グレアム・グリーンの原作、主な登場人物は、主人公ヘンリー、その叔母オーガスタ、
オーガスタの召使ワーズワース、更に物語後半に登場する数名。
しかしながら、脇役が多い。名前が与えられない人物を含めると、20名以上。
これを、4人の役者で演じ分けるという、おもしろい趣向の舞台。
ヘンリーは各人がそれぞれの場面で演じ分け、叔母は段田安則、召使は高橋克実、
物語後半に登場するビスコンティは浅野和之、とここは固定(もうひとりは鈴木浩介)。
脇役を演じるときは、場面が変わると今までやっていたのと違う役を瞬時に演じたり、
今まで他の人の役だったのに急にヘンリーに戻ったり、と中々大変。
しかしながら、見ている側には全く違和感がなく、完成度の高さに目を見張るほど。

母親の葬儀で久しく会っていなかった叔母と再会し、交流が深まっていく中、
叔母は何やら厄介事を抱え込んでいる様子。
破天荒で歯に衣着せぬ物言いをする叔母に、最初は振り回されっぱなしだったヘンリーも、
次第に叔母のペースに巻き込まれ、図らずも二人で世界各地を飛び回ることに。

狭い劇場だったこともあり、緊張感がみなぎる中、びっくりするほどスムーズに舞台が進み、
目まぐるしくさまざまな場面が入れ替わるも、俳優たちがその役にすっと入り込めているので、
演じ手各人の能力と意識の高さを感じられる舞台でした。
ちょっとした謎解きのエッセンスもあるので、見ている方も飽きずに舞台に入り込め、
かなり上質な仕上がりに大満足でした。
確かな実力のある役者陣で見ることができたのも、大きな要因でした。

◆エリザベート

前回公演時に見ることができなかったので、待望の公演です。
詳しいご感想やあらすじは、pistacciさんTaekoさんのブログをご参照いただくことに致しまして、
個人的な感想を少々…。

エリザベート、トート等、いくつかの役が複数キャストでした。
私が見たのはこちらのみなさんで。

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劇団四季時代から、石丸幹二さんが好きでした。
保坂知寿さんと同じ頃退団され、その後はあまり大きな舞台に出られていなかったので、
待望の石丸さんの公演でもありました。
恐らく山口トートの方がベテランだし貫禄あるんだろうなあと思い、興味もあったのですが、
ここは石丸トートで。

エリザベートの衣裳が絢爛豪華で、うっとり眺めてしまうこともしばしば。
浅海ひかるさんが生き生きとして美しく、エリザベートの自立が潔く表現されていました。

石丸トートの、スマートできびきびとした動きは、劇団四季時代を彷彿とさせるよう。
美声にもうっとり…。
(因みにですが、山口さんも超美声だと思いますので、山口トートもきっと情感たっぷりで、
石丸トートとは違った魅力が満載だったんだろうなあと思います。
…やっぱりちょっと聞いてみたい…。)
ですが、お客さんの評判はイマイチらしい…、というお話も、少し耳にします。
休憩中のロビーでも、山口トートとの比較を熱心に語っている方がいて、
消えるのが早い、ダンスで動いていない等々、ファンとしては残念な意見も…。
贔屓目かもしれませんが、私には決してそんなことなかったな…、と思えるのですが…。
(最も石丸ファンとしての意見では、久々に舞台で拝見するので、
なるべくメイクが軽めの役の方が良かったなあと、舞台以前の希望はありましたが。)

少々残念だったのが、フランツ・ヨーゼフがやや影薄いかな、と思ってしまったところ。
石川禅さんは上手な役者さんですし、同郷なので密かに応援しているのですが、
エリザベートやトートに比べると、役に個性がないのか、存在感があまりありませんでした。
折角なのにちょっと勿体無いかな、と…。

とは言え、ストーリーも舞台演出も演者のみなさんも、満足の舞台でした。
東宝ミュージカルは幕が開いた瞬間から、観客をみるみる舞台に引き込んでしまうので、
またすぐにでもこの気持ちを体験したい!と思ってしまいます。
そんなわけで、来月の「モーツァルト!」もチケット取ってしまいました。
今度は山口さんが見られます(笑)。
因みに、石丸さんは年明けにコクーンの「十二夜」で再度お目にかかれます。
好きなお話なので、とっても楽しみです。

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2階ロビーのオブジェ。エリザベートとトートの世界観でした。

10月は珍しく、舞台鑑賞の予定がありません。
というか、今年はめっきり舞台を見に行く機会が減りました。
…というのも、やはり歌舞伎座閉館の影響が、かなり大きいものと思います。
コクーン以降、歌舞伎を見ていませんし。半年近くも歌舞伎を見ないなんて、我ながら珍しい…。
新橋演舞場では度々歌舞伎公演がありますが、なんとなく見に行こうという気力が湧かず。
歌舞伎座の存在は大きかったんだなあと、つくづく実感しているところです。
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8月の舞台観賞 [観劇]

本当は個別にご紹介したかったのですが、何分記事を書く時間がなく…、
そうこうしているうちに、既に9月。
記憶も薄れますので、他で書いた記事の流用になりますが、何卒ご容赦下さいませ。

○「ロマンス」


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「レ・ミゼラブル」 [観劇]

この公演がかかる度に、一度は見てみたい…と思いつつ、中々実行できませんでしたが、
ようやく今回、見に行くことができました。

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「藪原検校」 [観劇]

      

Bunkamuraチケットメイトの会員登録をしましたが、
実はこの舞台も、今年の「ロープ」、「ひばり」、「写楽考」と、
全てぴあ等の先行予約で取っていました。
…チケットメイトのメリットはどれほどのものなのか、まだ実感できないでいますが…。

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「オンディーヌ」 [観劇]

     

劇団四季の自由劇場がオープンしたのが、今から3年半程前だったと記憶しています。
四季はそもそも、アヌイとジロドゥの作品を上演するために結成された劇団で、
自由劇場では、そのコンセプトに沿って、ストレートプレイを中心に上演されていますが、
杮落とし公演の第一作目が、「オンディーヌ」でした。

最近ではミュージカルも多く上演されていますが、
やはり自由劇場では、ストレートプレイの上演が、贅沢な劇場の造りに合っていると思います。
ステージと客席がとても近く、臨場感を存分に味わえるこの劇場は大好きですが、
更に今回はキャストも豪華に、「オンディーヌ」を堪能することができました。

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「写楽考」 [観劇]

     

またしても、今更記事ですが…。

「写楽考」自体は様々な劇団で、たまに舞台化されているようですが、
実際に見たのは、これが初めてです。
一昨年あたりにもやはり上演があった際、行こうかどうしようか迷い、結局見ていませんでしたので、
今回の舞台は、ある意味2年越しの念願叶って、と言ったところでしょうか。

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「コンタクト」 [観劇]

今月も舞台三昧の日々…(歌舞伎・文楽中心ですが)。
まずは劇団四季の「コンタクト」。

「コンタクト」は、三部構成のミュージカルです。
…ミュージカル、と言い切ってしまうのにも、抵抗はありますが…。
いわゆる歌って踊る舞台ではなく、どれもダンスが主体の、パワフルな舞台でした。
それぞれ別個のストーリーですが、テーマはタイトルそのものの「コンタクト」。
他人との接触が、各物語の主人公にとってどんな意味を持つものか、
三者三様の思いが、ドラマチックに演じられます。

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「ロープ」 [観劇]

     

年明け早々観劇続きでしたが…。
今月最後の舞台観賞、「NODA・MAP」第12回公演の「ロープ」を見に行ってきました。
…考えてみますと、野田秀樹さんの舞台も、歌舞伎の演出しか見たことがありませんでした。
いかに自分が狭い世界観しか持っていなかったかを痛感…。

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「朧の森に棲む鬼」 [観劇]

     

本年最初の舞台観賞は、新橋演舞場にて「朧の森に棲む鬼」。
市川染五郎と「劇団☆新感線」とのコラボレーションによる「新感染」、
「いのうえ歌舞伎」シリーズ最新作です。

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「タンゴ・冬の終わりに」 [観劇]

     

人気の公演は、先行発売でもチケットが取れないことが多々ありますが、
今回の「タンゴ・冬の終わりに」は、Bunkamuraのメールマガジンを取っていたお陰で、
メルマガ読者限定の先行発売で、チケットを手に入れることができました。
しかし、既にS席は予定枚数終了…。
やむを得ずA席を取りましたが、それにしてもいちばん端の席…。
先行発売と席の良し悪しに関係はないのか?と、疑問に思いました。

堤真一ファンの友人に羨ましがられながら、行ってきました。

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