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「写楽考」 [観劇]

     

またしても、今更記事ですが…。

「写楽考」自体は様々な劇団で、たまに舞台化されているようですが、
実際に見たのは、これが初めてです。
一昨年あたりにもやはり上演があった際、行こうかどうしようか迷い、結局見ていませんでしたので、
今回の舞台は、ある意味2年越しの念願叶って、と言ったところでしょうか。

大抵、舞台は一人で見に行くことが多いのですが、珍しいことに、今回は同行者あり。
上演予定を知った頃、堤真一をこよなく愛する同僚に、一応声掛けてみるか…と誘ってみたところ、
ふたつ返事で「行きます!!」との回答。
…確かに堤真一は主演だけど、内容はきっと渋いよ…。
それでも「堤真一なら何でも良い!」とのことでしたので、私も一緒に見に行く人がいるのは嬉しく、
張り切ってチケット予約をしました。

【あらすじ】(公演パンフレットより)
江戸・天明の世。
地獄絵を志す「あの男」と極楽絵を志す貧乏侍の子・勇助は、
江戸八丁堀の八軒長屋で奇妙な共同生活を送っていた。
そこに転がり込んできた世直しを志す浪人・幾五郎。
相次ぐ天災や飢饉で世情は不安ながらも、
三人はそれぞれの志を胸に、熱き青春時代を送っていた。
しかし、ひとりの女の死を境に、三人の人生は大きな運命の渦に巻き込まれていく。

十年あまりの歳月が過ぎ、寛政の江戸では、
「喜多川歌麿」が描く浮世絵が一世を風靡していた。
そこに、版元・蔦屋重三郎の後押しのもと、
猛烈な勢いで錦絵を発表する正体不明の絵師「東洲斎写楽」が登場し、
歌麿をしのぐ注目を集めだした。
謎の絵師・写楽とは一体何者なのか?
写楽がその人生に背負った宿命とは?
写楽を取り巻く人々の運命は?

【キャスト】(敬称略)
あの男(伊之) ― 東洲斎写楽…堤真一
重田幾五郎 ― 十返舎一九…高橋克実
北川勇助 ― 喜多川歌麿…長塚圭史
お加代・お春…キムラ緑子
お米…七瀬なつみ
蔦屋重三郎…西岡徳馬

イメージしていた内容は、史実に基づいた「写楽の一生涯」でしたが、
時代の流れを反映させながらも、かなりの創作でした。
奔放に生きる伊之(後の写楽)の人生観には、そこだけ切り取ると、決して同調できませんが、
実は自分だけの大いなる信念を持っていて、それが伊之の原動力、
自分を信じることが、大きな力となっている、妙に自信に溢れた男でした。

その自信が崩れるのが、愛人・お加代の死です。
大店の女将と不倫関係にあったわけですが、実は伊之の同居人・勇助も、お加代と密通しており、
お加代は勇助との間の子(お春)を身ごもってしまいます。
当然伊之は怒り狂いますが、既の所で思い止まります…にも関わらず、自ら命を絶つお加代。
その現場をお米や蔦屋に目撃され、伊之は殺人の濡衣を着せられたまま、身を隠します。

あれだけ自信に溢れていた男が、すっかり隠遁生活に染まり、
自信は欠片も残っておらず、卑屈に暗くなる様子は、ほとんど別人です。
逆に自信を付け、明るく嫌味な男に変貌したのは、歌麿を名乗る勇助。
世の名声を手に入れたお陰か、驕り高ぶった態度を取る、大変感じの悪い男になっていました。
伊之と同居していたときには、いつも伊之の陰に隠れ、世間一般で正しいとされる道を歩んできた、
しかしそれも見せかけ、お加代との密通が明るみになり、彼もまた人生の歯車が狂ったのです。
勇助の生き方は、ひどく腹立だしいものですが、彼もこうするしか生き延びる術を知らず、
いつも虚勢を張っていないと不安なのだと思うと、またかわいそうに思えました。

そして更に伊之の人生が変わるのが、写楽としての華々しいデビュー。
全ては蔦屋の陰謀でしょうが、これが伊之にとっても世間にとっても、大きな機転となったのです。
人生何が起こるかわからない、と一言で言ってしまえば簡単ですが、
それが自分の人生だけにおいてなのか、それとも他人の人生までも巻き込むものなのか、
よくよく考えると、結構恐ろしいものだと思わずにはいられませんでした。

堤真一の舞台は、昨年の「タンゴ・冬の終わりに」に続いて二度目でした。
テレビや映画で見る限り、正直そんなに格好良いと思ったことはありませんが(失礼)、
生堤真一は、妙に格好良く見えます。
存在感があるので、とても舞台栄えします。
前半の粋な伊之から後半の不気味な写楽まで、上手に役を使いこなしているようでした。

狂言回しとして、また劇中でも登場する十返舎一九を、高橋克実が演じていました。
どうしても「トリビアの泉」のイメージが先行してしまうのですが、中々の演技派で、
少々驚きました。とても良かったです。
笑いを取る場面は、ふっと力を抜いて笑える面白さも当然兼ね備え、
また意外と動きが敏捷だったのにも驚きました。

ドラマでよく見かける西岡徳馬は、さすがの存在感で圧倒していました。
渋い上に蔦屋という役は少々地味に思えましたが、
本当に上手い役者でないとできないような、重要な役どころをしっかりと抑えていました。

男性陣では、勇助役の長塚圭史がやや存在感に欠けるようでした。
アクが強くないようで、さっぱりとしていましたが、他の役者の間に埋もれる感があり、
少々勿体無い感じもしました。

また、男性陣に比べると、女性陣も今ひとつインパクトに欠けるようでしたが、
キムラ緑子さんは、気の強いお加代役にはぴったりでした。
七瀬なつみさんは、ドラマのイメージが強く、しかも年若いお米には少々無理があったかな、とも…。

テーマとしては私は結構好きですので、十分楽しめました。
また音楽も、和太鼓と横笛の生演奏が、舞台上に緊張感をもたらしていました。
黒が基調の舞台美術も美しく、視覚的にも良かったです。

私もすっかり堤真一ファン…とまでは行きませんでしたが、
これからも彼の舞台は見続けたいなあと、純粋に思わさせられました。

                                      (観賞日:2007年4月11日)


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柴犬陸

これは、いろいろ考えてスルーした芝居でした。
堤真一さんとは縁があって、蜷川氏やKERA氏演出で何度かお目にかかっています。
華があるし、演技力も確かだから主役にはピッタリなのでしょうね。
個人的には、ちょっとコミカルな演技が似合っているように思いました。
by 柴犬陸 (2007-05-04 12:26) 

雛鳥

柴犬陸さま
nice!&コメント、ありがとうございます!
今年からBunkamuraチケットメイトに登録しましたので、
なんだかコクーンのチケットは、取らないと勿体無い気がしています。
堤真一は、舞台を見るようになってから、大分印象が変わりました。
「華がある」、確かにその通りですね。
コミカルな舞台も、是非見てみたいです。
by 雛鳥 (2007-05-05 11:14) 

バニラ

堤真一、好きです♪
でも舞台では拝見してないのでその魅力の半分もわかってないのでしょうけれど。
by バニラ (2007-05-06 15:47) 

雛鳥

バニラさま
nice!&コメント、ありがとうございます!
…実は堤真一ってあまり興味なかったのですが、
あまりにも友人が絶賛するので、多少贔屓目で見ていましたところ、
贔屓目に見なくとも、素晴らしい役者でした。
幅広い役を演じられる役者だと思います。
by 雛鳥 (2007-05-06 23:35) 

雛鳥

オレンジさま
nice!どうもありがとうございます!
by 雛鳥 (2007-05-08 22:17) 

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