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「オンディーヌ」 [観劇]

     

劇団四季の自由劇場がオープンしたのが、今から3年半程前だったと記憶しています。
四季はそもそも、アヌイとジロドゥの作品を上演するために結成された劇団で、
自由劇場では、そのコンセプトに沿って、ストレートプレイを中心に上演されていますが、
杮落とし公演の第一作目が、「オンディーヌ」でした。

最近ではミュージカルも多く上演されていますが、
やはり自由劇場では、ストレートプレイの上演が、贅沢な劇場の造りに合っていると思います。
ステージと客席がとても近く、臨場感を存分に味わえるこの劇場は大好きですが、
更に今回はキャストも豪華に、「オンディーヌ」を堪能することができました。

【あらすじ】(公演チラシより)
オンディーヌは水の精、自然美に光り輝き、天衣無縫に振舞う少女、永遠を生きる妖精。
そのオンディーヌが嵐の夜、北欧の湖のほとりで憂愁の騎士ハンスと出逢い、
宿命的な愛の絆で結ばれる。
しかし人間を愛した水の精に、水界の王は“もしハンスが心変わりすればその命を断つ”という
過酷な掟を言い渡す。
オンディーヌは愛を貫き、ハンスの妻として宮廷での生活を始める。
だが自然の中では魅力的なオンディーヌの振舞いも、宮廷では無作法でしかない。
いつしかハンスの心は王の養女ベルタ姫へとひかれてゆく。
妖精の力で人の心を読み、すべてを知りつくしてもなお、ハンスを愛し、
水界の掟から彼を守ろうとするオンディーヌは、ハンスを救うため、
自分が心変わりしたと見せかけて姿を消してしまう。
そして、ハンスとベルタの婚礼の日。
宮廷につれ戻されたオンディーヌは、水界の王の前で自らの裏切りを証明しようとするが…。

【キャスト】(敬称略)
オンディーヌ…野村玲子
ハンス…石丸幹二
水界の王…日下武史
ベルタ…大平敦子          他

純真、素直、無垢…オンディーヌという人物の人柄を表すには、そのどんな言葉でも足りません。
一言で「不思議」と言ってしまうのにも抵抗のある、奔放すぎる少女です。
元来人ではないオンディーヌは、養父母との関係も決して良好ではなく、
常にマイペースで、自分の価値観だけで生きています。
そんな彼女が初めて愛した、人間の男性・ハンス。
自分の生活に他者を受け入れることで、彼女の生活は一変、
幸福ではあっても、今までの自分のままでは受け入れてもらえない、
分かってはいても、自分の価値観を変えることはできず、
彼女と周囲の人々との間には、溝が深まるばかりです。

しかしオンディーヌが思っているほど、ハンスは純粋でも誠実でもなく、
結局は、自分の周りの女性とは全く違うオンディーヌが珍しく、
惹かれたつもりになっていても、彼女のペースについていくことに疲れ、
兼ねてから婚約していたベルタとの、無難な幸せを選ぶことにしたのでしょう。

一見、心優しく美しいベルタですが、ハンスへの思いを断ち切れず、したたかであることを、
オンディーヌは見抜きます。
更にベルタが、実はオンディーヌの養父母の実子であることも分かり、
ベルタは宮殿を追い出されてしまいます。
ベルタに優しくすることでハンスの心を繋ぎ止めておけると思ったオンディーヌは、
行き場のないベルタを自分たちの館に招きますが、却ってそれが自身の破滅を招くことになるのです。

物語自体はおもしろいと思いましたし、結構好きなのですが、
実は共感できる登場人物が、一人もいませんでした…。
オンディーヌのように自由奔放に生きられるのは、ある意味羨ましいですが、
ここまで純粋に育ってしまうと、必ず周囲に順応できなくなる日がやってくると思います。
その点では、ハンスやベルタはとても人間らしく、不義を働いてもそれが自然に見えてしまう程です。

純粋な心を持ったまま、限られた世界で守られながら、
しかもそのことについて疑問を抱かず、永遠の15歳として生きていくか、
それとも、どろどろと感情の渦巻く世界で、自分の欲しいものを求めながら年を取り続けるのか…。
オンディーヌとハンスの生き方は正反対のようですが、
実際は私たちも、そのどちらの要素をも持ち合わせているのだと思います。
それぞれの嫌な部分は、自分にも当てはまると軽い衝撃を受け、弱い部分を見ると落ち込みました。
しかし、自分にとって本当に大切なものを見抜く心だけは、決して失ってはいけない、
オンディーヌと共通する、最も重要な部分だと感じました。

四季の役者さんをまだよく知らない私でも、今回はかなりの豪華キャストだと思います。
一応、石丸幹二ファンではありますが、やっぱり格好良い…。
普通に二枚目なだけでなく、人間臭い部分もたくさんあるハンスに、親近感が湧きました。

ベルタ役の大平敦子さんも、「きれいだけど嫌な感じの女」を好演。
クラシックな赤いドレスが良く似合う、きれいな溌剌とした女優さんでした。
以前に「南十字星」リナ役を見たことがありますが、インドネシアの女性役とはまた違う、
気品と優雅さを感じられました。

野村玲子さんは、私が初めて見た四季の舞台「李香蘭」で、主演を勤められていたことから、
印象に残っている女優さんです。
キャリアがあるのにずっとかわいらしさを保っているのはすごいと思いましたが…、
さすがに15歳の役はどうかなあと…(永遠の15歳ですが)。

また舞台装置も大掛かりで、目を見張るものがありました。
小さく見えるステージも、実は奥行き・高さ共に普通の劇場と変わらず、
水や煙を使った演出も、大きな劇場と同様もしくはそれ以上の迫力で、客席を魅了しました。
地面からトロイの木馬がせり上がってきたり、背景に突如滝ができたりと、
あれだけの空間では考えられないようなセットに、ただ驚くばかりでした。

物語の最後に、オンディーヌは無垢な少女に戻ります。
とても悲しいラストシーンですが、これが彼女にとって最も幸せな方法なのだろうと思うと、
永遠を生きる彼女がかわいそうになり、少し好きになりました。

                                         (観賞日:2007年5月4日)

【おまけ】

浜松町駅のすぐ隣に、旧芝離宮恩賜庭園があります。
ずっと行ってみたいと思っていましたが、ちょうどこの日が「みどりの日」でしたので、
無料開放されていました(因みに普段は、大人¥150、子供¥70かかります)。
「藤の花が満開」のフレーズに誘われて行ってみたものの…。

結構散ってしまった後でした…。
お花の盛りは、本当にあっという間です…。

代わりに、あやめがきれいに咲いていました。

     

庭園内は結構な広さで、ゆっくりのんびり散歩を楽しむのも良いと思うのですが、
地面が砂利敷きで意外と歩きにくく、しかもこの日は買ったばかりの靴を履いていましたので、
「靴に傷を付けては…」と、すぐに出てきてしまいました。
大きな池が中央にありますので、これからの季節は木蔭で池を眺めるのも一興かと思います。


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コメント 5

柴犬陸

オンディーヌ、懐かしいです。
でも、舞台を観たことはありません。
劇団四季から遠ざかってもうだいぶ経ちましたので。
また行きたい気持ちを呼び起こしてくれた雛鳥さんの記事でした。
by 柴犬陸 (2007-05-17 00:42) 

雛鳥

あやっぴぃさま
nice!ありがとうございます!

柴犬陸さま
nice!&コメント、ありがとうございます!
四季の舞台は結構好きで、3ヶ月に一度くらいは見に行きます。
(続くときは続きますが…。)
「オンディーヌ」は以前から見てみたかったので、
ようやく念願叶ったという感じで、満足です。
小さめの劇場で感じられる臨場感も良いです。

Taekoさま
nice!ありがとうございます!
by 雛鳥 (2007-05-17 21:35) 

バニラ

お話の内容にはとっても興味が湧きます。
でも雛鳥さんが登場人物の誰にも感情移入できなかったって
あるのも わかるような気がします。

浜離宮、まだ行ったことがないのでここも行きたい場所候補の
上位に入っているのですよ。 いいなぁ。やっぱりこれからの季節には
ぴったり。
by バニラ (2007-05-20 06:38) 

雛鳥

バニラさま
nice!&コメント、ありがとうございます!
劇団四季はミュージカルもストレートプレイも好きで、たまに見に行きますが、
最近は大感動!という舞台が少なくなってきたような気がします…。
こちらも話としてはおもしろかったのですが…なんだか今一歩のような…。

浜離宮は、のんびりできて中々素敵な場所でした。
もっとゆっくり散策すれば良かったのですが…。
のどかな和風庭園の、向うに見えるは高層ビル…と少々不思議な光景も
広がっていました。
by 雛鳥 (2007-05-21 00:32) 

雛鳥

オレンジさま
nice!ありがとうございます!
by 雛鳥 (2007-05-21 00:33) 

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