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8月の舞台観賞 [観劇]

本当は個別にご紹介したかったのですが、何分記事を書く時間がなく…、
そうこうしているうちに、既に9月。
記憶も薄れますので、他で書いた記事の流用になりますが、何卒ご容赦下さいませ。

○「ロマンス」



チェーホフの生涯と彼を取り巻く人々を追った、井上ひさしの新作。

貧しい家庭環境に育ったチェーホフは、大学の医学部を卒業後、
街の開業医となる一方、少年の頃から持っていた、 喜劇を書くという夢を追っている。
そんな彼に献身的に尽くし、結婚もせずに世話をする妹のマリヤ。
しかし、マリヤの友人で女優のオリガとチェーホフは出会い、 恋に落ちてしまう。
二人の結婚後も、変わらず兄に従事する妹。
一方チェーホフは、自らの書く戯曲について疑問を抱き始める。
しかしその頃、既に病魔が彼を蝕んでいた…。

チェーホフを演じるのは、4人の役者(井上芳雄・生瀬勝久・ 段田安則・木場勝己)。
少年・青年・壮年・晩年を上手く演じ分け、 入れ替わりの瞬間も違和感はない。
出番のない役者は、他の役を演じるという、おもしろい配役。

一度の成功を手に入れてしまったばっかりに、 自分の意志とは無関係に、
周囲の期待を煽り、それに応えることに疑問を抱くチェーホフ。
期待通りの仕事は、本来自分の望むものではない。
が、どんなに自分を出そうとしても、 周囲は期待した通りに歪曲して見てしまう。
一見して成功しているようなチェーホフの孤独と葛藤を、 観客はストレートに目にする。
辛さや悔しさを言葉にして初めて、周囲は彼の苦悩を知る。

兄に対し、ほとんど恋愛と言って良い感情を抱くマリヤ。
彼女もまた、傍から見れば報われない人生を送っている。
しかし彼女の場合は、自らが望んでそうしているのであり、
決して不毛で報われない、と自分では思っていないことから、 前向きにも捉えられる。
そんなマリヤを、松たか子が健気に可憐に演じている。

オリガを演じたのは、大竹しのぶ。
貫禄がありながら、ユーモアもたっぷり。
自由奔放ながらも、彼女なりに真剣にチェーホフを愛していたことが 伝わってくる。

全体的には地味ながらも、一流の役者とスタッフによる、 贅沢で上質な舞台。
何か大きな転換や見せ場があるわけでもないのに、
このままずっと見ていたいと思わせられるような、 心地の良い不思議なおもしろさに溢れていた。

劇中、最も印象に残った、オリガとチェーホフとの掛け合い。
「もしも奥さんと別れて、ヤルタ(チェーホフ静養の地)に 帰らなければいけなくなったら?」
「よかった、次に会えるのが楽しみだ」

                                         (観賞日:2007年8月4日)

○八月納涼歌舞伎・第三部「裏表先代萩」

時代物の「伽羅先代萩」を表、
世話物仕立ての町人街で起こった殺人事件を裏として、
交互にふたつの物語を進行させて行く作り。
大詰で「裏」が「表」にリンクしていくのがおもしろい。

二年振りの納涼歌舞伎出演となる勘三郎は、さすがにがんばっていた。
政岡は初役と聞いて驚くほど、ぴったりはまっていた。
が、仁木弾正は憎々しさが微妙…。
この他に、「裏」では下手人役もこなし、大奮闘。

しかし、滅多に上演されない珍しい演目の割りには、
普通の「先代萩」を見慣れているせいか、 全体的に地味な印象は否めなかった。

                                        (観賞日:2007年8月19日)

○「ヴェニスの商人」

就業後、天王洲アイルの銀河劇場にて舞台観賞。
大まかなあらすじをうろ覚えの「ヴェニスの商人」。

舞台上はヴェニスの街を作り上げた、どこか陽気な雰囲気。
仮装行列に因んで、仮面を着けた道化師たちが、
上演前のロビーや客席を闊歩。中々楽しい。

ユダヤ人高利貸しシャイロックを演じた市村正親が地味な役柄だったせいか、
全体的に小ぢんまりとした印象は拭えないものの、
彼からお金を借りるバサーニオ役の藤原竜也、
バサーニオの親友でシャイロックに命を狙われる商人アントーニオ役の西岡徳馬、
バサーニオの美しく聡明な妻ポーシャ役の寺島しのぶ等、
実力派揃いのキャストにより、上質な舞台に仕上がっていた。

ストーリーの進行もテンポ良く、飽きることなく全編楽しめた。
知っているつもりの名作でも、実は知らないことが多々あるので、
こうした形でシェイクスピア作品に触れることができたのも、 良い機会だった。

それにしても、舞台で見る限りは、
シャイロックが理不尽なくらい哀れに思える…。

劇場前には出演者に贈られた花たちが、
所狭しと並んでいて、とても華やかな雰囲気。

                                        (観賞日:2007年8月22日)

今月は、既に3本舞台を見ていますが、感想がいつ書けるかは不明…。
舞台や展覧会は、そのときに感じた思いをすぐにまとめないと、
結構忘れてしまうものだなあと実感…。
反省しつつ、今後も舞台観賞に励みます。


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コメント 8

バニラ

チェーホフは井上ひさしだから興味あるなぁ。 大竹しのぶファンとしても興味津々。
納涼歌舞伎は裏と表のリンクだなんて、想像つかない仕掛けですねぇ。
歌舞伎も色々新しい演出に挑戦しているのでしょうね。
ヴェニスの商人は一番なじみ深い内容だし、市村正親や寺島しのぶが大好きなのでこの舞台、観てみたいなぁ。
雛鳥さん、この後ももうすでに3本も観劇されているのですか?すごいなぁ。
そういう余裕を持たなければいけませんよねぇ。 
by バニラ (2007-09-09 14:39) 

TaekoLovesParis

どれもとってもおもしろそう。。。
チェーホフは、「かもめ」を今年見たので、この「ロマンス」のストーリーが
わかりやすいです。大竹しのぶはいつも役になりきって上手いですね。
マクベス夫人が印象的でした。ヤルタって、歴史で習ったヤルタ会談の
場所。静養地なんですね。

私が8月に見たのは「エレンディラ」。蜷川演出の大仕掛けな舞台でおもしろかったです。4時間が長く感じなかったほどなので。主演の中川晃教は
11月には帝劇のミュージカル「モーツァルト」のモーツァルト役。

寺島しのぶの舞台は見たことがないので、いつか行きたいと思って
るんですよ。
by TaekoLovesParis (2007-09-09 23:28) 

あんこ

「ロマンス」私は16日に観る予定です。
キャストが魅力的なので楽しみにしていた作品。
こまつ座、今回は無事に幕があいてよかったです☆

ほんとうに舞台の感想はすぐに記事にしてしまわないと
記憶も薄れるし、テンションもさがって「もういいや」という
気持ちになってしまいますね。
私もそうしてもう何本もお蔵入りにしてしまっています^^;

15日はパルコとコクーンをかけもちします。
じっくりゆっくりと観たいのはやまやまですが悲しいかな東京は遠い。
11月以降も観たいものがたくさん。取捨選択に悩みます。
by あんこ (2007-09-10 04:19) 

チェーホフが面白そう。好きな役者さんがいっぱいだし。
納涼歌舞伎も見たことのないしかけですが、寺島しのぶさんも評判がいいので、見てみたいですねぇ。といっても、今の私に見るすべはなしですが。
by (2007-09-10 15:40) 

pistacci

見たかった舞台なので、時期がずれていても、観劇記うれしいです。
「ロマンス」は豪華キャストですね。一つの役を、4人で、同じ舞台で演じるのも、クワトロキャスト、というのかしら。
銀河劇場は、素敵な劇場で、好きです。
<理不尽なまで哀れなシャイロック>
市村さんの「リチャード三世」を、思い出しました。哀れな、観客の胸打つ姿は、市村さんだからこそでは、なんて、思ったのでした。
by pistacci (2007-09-10 21:07) 

雛鳥

バニラさま
nice!&コメント、ありがとうございます!
井上ひさしは、やっぱりおもしろいと、改めて感じました。
真新しい何か、というわけではないのですが、妙に心惹かれます。
大竹しのぶはパワフルですね。ちょっと圧倒されるほどでした。
「ロマンス」はキャストが豪華でしたので、得をした気分です♪
今月の舞台は、予定を確認せずにチケット取ってしまいましたので、
2日間で3本見ました…アホです、ちっとも余裕がありません…(汗)。
こうして日の目を見ない記事がたまっていきます…。

Taekoさま
nice!&コメント、ありがとうございます!
私もヤルタの地名を聞いたとき、最初に浮かんだのは「ヤルタ会談」でした(笑)。
「エレンディラ」、実は見たかったのです!
が、さいたまが遠く感じ、結局断念しました…。
がんばって行けば良かったな、と少々後悔しています。
「モーツァルト」は、何とか時間見つけて見たいと思っています。
「レミゼ」以来、東宝ミュージカルに惹かれるものがありまして。

あんこさま
nice!&コメント、ありがとうございます!
お蔵入り記事…私も数え切れず…(苦笑)。
一応mixiで毎日日記をつけているので、今回の記事はそれの寄せ集めです。
きちんと書き直したかったのですが、中々時間が取れず…。
パルコとコクーンの掛け持ちはすごいですね!近くて良かったです。
コクーンは、先週行ってきました。
長塚演出に妙に感動してしまい、阿佐スパを見に行くのが目標となりました。

あやっぴぃさま
nice!&コメント、ありがとうございます!
ロシア文学は、全く触れたことがなかったので、
最初は少々身構えましたが、それも不要でした。
純粋にお芝居を楽しんでいる気分になれる、素敵な舞台でした。
沖縄は、国立劇場おきなわに、一度行ってみたいと思っています。
郷土芸能のために大きな劇場が出来るなんて、すごいと思います!

pistacciさま
nice!&コメント、ありがとうございます!
あっさりとしているのに、濃密さを確かに感じられる「ロマンス」、
お芝居好きじゃないと、少々厳しいかな、と思えるところもありましたが、
逆にお芝居好きには、見て良かったと純粋に思える舞台でした。
市村さんは、不思議な役者さんですね。
舞台に登場していると、目が離せなくなります。
来年開幕の「ペテン師と詐欺師」、昨年銀河劇場で見ていますが、
ちょっとまた行きたくなりました。
by 雛鳥 (2007-09-11 00:20) 

柴犬陸

「ロマンス」も「ヴェニスの商人」も私はこれから観劇予定です。
雛鳥さんがすでに8月に観劇済みと知って、ビックリでした。
最近、コクーンはとんとご無沙汰していて、今回の「ドラクル」もパスしました。
雛鳥さんとは逆で、阿佐スパからちょっと距離をおきたい気分になっています。
阿佐スパの会員も辞めてしまいました。
それぞれの感想が違うのは面白いですね。
by 柴犬陸 (2007-09-11 15:31) 

雛鳥

柴犬陸さま
nice!&コメント、ありがとうございます!
8月は夏休みで帰省の予定があった関係で、
チケットを取る際、すごく日にちを考えてしまって、
結局「ロマンス」も「ヴェニスの商人」も、開幕後すぐの観賞となりました。
阿佐スパはまだ見たことがなく、長塚演出も初めてでしたので、
今はとても興味が湧いているところですが、
長く見ていくと違う感覚になるかも、ですね。
もっと色々な舞台を見に行きたいです。
by 雛鳥 (2007-09-13 09:38) 

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