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「ロープ」 [観劇]

     

年明け早々観劇続きでしたが…。
今月最後の舞台観賞、「NODA・MAP」第12回公演の「ロープ」を見に行ってきました。
…考えてみますと、野田秀樹さんの舞台も、歌舞伎の演出しか見たことがありませんでした。
いかに自分が狭い世界観しか持っていなかったかを痛感…。

【主なキャスト】(敬称略)
タマシイ…宮沢りえ
ヘラクレス・ノブナガ…藤原竜也
カメレオン…橋本じゅん
グレイト今川…宇梶剛士
サラマンドラ…松村武
ディレクターの妻…渡辺えり子
ディレクター…野田秀樹        他

【あらすじ】
ヘラクレス・ノブナガは、プロレスに八百長はなく本物だと信じる、引きこもりのレスラー。
相方のカメレオンとレフェリーのサラマンドラは、ノブナガを表舞台に立たせようと、奮闘する毎日。
そんな彼らの事務所に忍び込んできたのは、地方のケーブルテレビ局の面々。
視聴率を上げるため、プロレスの試合を盗み撮りし、こっそり放映しようと目論んでいます。
ところがリングの下には、自称「未来から来たコロボックル」のタマシイと名乗る女性が、
密かに住み着いていたのでした。
テレビ局は、プロレスの実況中継が抜群に上手な彼女を上手く取り込み、
ノブナガとグレイト今川の試合を中継したところ、評判は上々、更なる映像を求められます。
しかしタマシイは、暴力のあり方について、疑問を抱き始めます…。

                     ***

幕が開いてからは、単純に可笑しく、笑えるシーンが続きました。
ノブナガのために用意された食事を、テレビ局の面々がこっそり素早く食べたり、
カメレオンとレフェリーの漫才のようなやり取りは、普通に笑えました。
特に渡辺えり子の名演が可笑しく、タマシイを取り込むために「自分たちもコロボックル」と、
嘘をつき始めるシーンなんかは爆笑でした。
野田秀樹自身も、気弱なディレクター役で出演していますが、
渡辺えり子に押されながら動くシーンが、よくある家庭の縮図のようで、本当に可笑しいです。

主役を演じる宮沢りえ、藤原竜也も中々でした。
りえさん…細すぎる…腕なんかは折れてしまいそうなくらい華奢で、びっくりです。
今回はあまりきれいな格好をしている役ではないのですが、それでもかわいさは抜群。
彼女は私が小学生の頃にデビューしていたと思うのですが、
あの頃ものすごく話題だった美少女を、今目の当たりにしている自分にもびっくりです。
一方の藤原竜也は、とても若いという印象しかありませんでしたが、
舞台のキャリアが長いせいか、舞台慣れしている様子が分かり、
さすがに上手いなと感じる場面もちらほらありました。

そして私の目を引いたのは、宇梶さん。
テレビで拝見しても結構好きでしたが、なんておもしろい人なんだ!というのが印象です。
可笑しいだけではなく、どことなく知的さも漂っていて素敵でした。
悪役レスラーの役でしたので、なんだかよくわからない挑発の台詞を、
情感たっぷりにおもしろく語る様子が可笑しかったです。

今回のテーマは、プロレス。
私の個人的な趣味ですが、プロレスは好きではありません。
プロレスのみならず、ボクシングやK1等の格闘技全般が、好きではありません。
と言うのも、どうしてもスポーツ的な要素よりも、暴力としての印象が強く、
人間同士が殴り合い、顔を腫らし、血を流し、倒れ込む様子が痛々しく、
路上でこんなことをしていたら普通に喧嘩なのに、
どうしてそれをわざわざ見世物にするんだろう…と思っているからです。
(純粋にその世界で戦う方々には、大変失礼ですが…。)

今回の舞台は、私のそんな印象や疑問を、ある種の解決の方向へ導いてくれました。
プロレスが暴力か、と言ったら、正直今でもよく分かりません。
しかし、暴力というものは、確実にこの世界に存在します。
当然肯定される事柄ではないですが、果たして悪いのは当事者だけなのでしょうか…。
舞台上では、プロレスの試合を観戦した視聴者が、更に激しい試合を求めます。
視聴率を気にするテレビ局は、その煽りを受けて視聴者の期待に応えようと必死です。
もはやそこにあるのは、スポーツとしてのプロレスではなく、
激しさと混乱に取り付かれた、暴力の終焉なのでした…。

(この先、舞台の核心に迫る記述があります。
何らかの形で今後舞台観賞の予定のある方は、お控え下さい。)

プロレスの試合のシーンは、見ていてもあまり気分の良いものではありませんでした。
野田秀樹の演出は大変おもしろく、自然な笑いもあり良かったのですが、
舞台の中盤以降、「一体何を伝えたいのだろう…」という疑問が湧き、
自分の中で、プロレス他格闘技に対する嫌悪感が、結構募ってきました。

しかし、そんなに単純なものではないことが分かったとき、かなりの衝撃を受けました。
辛く、苦しく、人間の汚さ、愚かさに腹が立ち、しかし自分が今生きている現在は、
そんな人間たちの歴史の上に成り立っている、その図々しさにも愕然としました。

「未来からやって来た」と語るタマシイ、しかしその「未来」の正体とは、
ベトナムにあった「ミライ」という村だったのです。
戦時中のある晴れた日、村は突如アメリカ軍の奇襲に遭い、たった4時間で滅びました。
ミライという村が、実在していたのかどうかは分かりません。
しかしベトナム戦争時において、4時間で滅んでしまった村は、存在したに違いないでしょう。
ベトナム戦争だけではなく、人類が今まで繰り返してきた戦争において、
このような一途を辿った地域は、数え切れないほどあるに違いありません。
どうして今までそのことを考えもしなかったのか、気付かなかったのか、
気付いていたけれど、見ぬ振りをしてきたのか…。
それは間接的にでも、暴力を肯定することになっていたようで、
目を背け続けてきた自分が恥ずかしく、非常に悲しくなりました。
暴力が嫌いだと豪語する自分は、実はそんなことを語る資格などなかったのです。

何もこれは、暴力に限っての話ではないと思います。
嫌いだから見ない、嫌いだから知ろうとしない、
しかしそれでは、そのものの本質を理解できないままです。
本質を理解できないうちは、それについて語ったり、判断を下したりしてはいけないのです。
そんな基本的なことを忘れていた自分が情けないです…。

劇中、タマシイの台詞で、「あったことをなかったことにはできない」というものがあります。
まさにその通り、目を背けたくなる現実でも、きっちり受け入れていかなければなりません。
今まで何度、現実を呪いたくなったことがあったでしょうか…。
でもそれは事実、間違いなく、自分の犯してきた過ちと結果なのです。

しかし、今更手遅れ、ということはありません。
舞台上でも、ラストではまだタマシイが存在していることが示唆されますが、
物事の本質というものは、決してなくなることはありませんので、
知ろうと思ったときには、きちんとそのものを知っていかなければならず、
それはいつでもできるのです。

希望が残されている限りは、それを捨ててはいけない、絶やしてはいけない。
笑いから始まったこの舞台ですが、最後にとても大切なことを気付かせてくれました。
野田秀樹…やっぱりすごいなあと思わざるを得ません…。

劇場で購入したパンフレットには、野田秀樹と中村勘三郎との対談が載っていました。
中々興味深く、おもしろい内容でした。
是非また「鼠小僧」を上演して欲しいなあと思っています。お願いします。

                                      (観賞日:2007年1月24日)


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あんこ

私は野田秀樹と同世代です。
ベトナム戦争というと「ソンミ村」の虐殺や戦火の中を裸で逃げる
女の子の写真、枯葉剤のことなどが頭に浮かびます。
序盤の笑いがあるからこそ後半の重さに耐えることができるのかも
しれませんね。
ベトナム戦争に限らず現在も続いているあらゆる争いに対しての
メッセージなのだと受けとめました。
2ヶ月におよぶ公演にもかかわらず満席なのはすごいことですね。
by あんこ (2007-01-30 03:35) 

一度きりの舞台でそれ程のことを伝えた野田さんもすごいけど、
ここまでいろんなことを考える雛鳥さんもすごいなぁ~。
確かに、現実にあることを、見ないからって、なかったことには出来ませんからね。そして、私たちがその世界に存在することも。
本当に、いやなこと、つらいこと、目を背けたいことが多い世界ですが、
私たち、それだけってわけではないですから、未来を託す子どももいると、
目を背けてばかりもいられないし、まだまだ見捨てられるものではないですからね。
舞台を見られるかは分からないのですが、雛鳥さんの文を読むと、いつも新しい発見があるので、とても見たくなってきます。
by (2007-01-30 15:18) 

雛鳥

あんこさま
こんばんは、nice!&コメント、ありがとうございます!
こんなに重いテーマの舞台とは思っていませんでしたので、
見終わった後の重圧感がすごかったです…。
野田秀樹が、何故このテーマを選んだのか、当初不思議に思っていましたが、
舞台を見終わって、やっと分かったような気がします。
辛い描写もありましたが、未来と希望が残されているところに救いがありました。
チケットの売れ行きはすごいですね。私の観賞時も、立見席は満杯でした。

あやっぴぃさま
こんばんは、nice!&コメント、ありがとうございます!
図らずも、なんだか色々と考える結果となってしまいました。
舞台を見た直後よりも、思い出して記事を書いている時の方が辛かったです。
私も普段、面倒臭いことを後回しにし、後で慌てることが多いのですが、
結局は見ないから存在しない、という理論は当てはまらないですね…。
色々なことを真摯に受け止めて、きちんと生活していかなければ
いけないな、と痛感しました。
by 雛鳥 (2007-01-31 00:28) 

d+

こんにちは。
とっても豪華なキャストの舞台ですね♪
宮沢りえちゃんは大好きなので、1度生で見てみたい女優さんの1人です♡
藤原竜也くんは舞台出身だけあって、基本がシッカリしてそうなイメージを受けます。ドラマしかやったコトのない俳優さんが、初めて舞台をやると声量とかカツゼツが全然なってなかったりするので・・・。

雛鳥さんの熱い記事を拝見していたら、久しぶりに舞台鑑賞をしたくなってしまいました(^^)
by d+ (2007-01-31 11:34) 

「ロープ」、とても良かったようですね。これはどうしようかまよってるうちにチケットとり損なっていたので、雛鳥さんのコメントで観たような気分になる事ができました。ありがとうございます。昨年のNODA・MAP「罪と罰」を観たのですが松たか子さん、古田新太さんなど実力のある方が出てらしてなかなか見応えある舞台でした。宇梶さんもでてらして、やはりいい味出してましたよ。
by (2007-01-31 17:46) 

雛鳥

オレンジさま
こんばんは、nice!&コメント、ありがとうございます!
こちらの舞台も、結構な豪華キャストですよね。嬉しかったです。
宮沢りえさんは、本当に細くてかわいくてびっくりでした!
でも、一時期のような不健康さはなく、表情が明るくて良かったです。
昨年見た舞台の中で、ドラマに主に出ている女優さんを見、
台詞回しのわざとらしさに呆然としたことがあります。
舞台を見始めてから、ドラマとの違いが顕著に見えるようになってきました。
決してどちらが良い悪い、というのではないのですが。

jkさま
こんばんは、nice!&コメント、ありがとうございます!
「ロープ」はぴあのプレリザーブが当ったのですが、結構チケット売れてましたね。
当日券もかなりの列、立見席も満杯でした。
約2時間、休憩なしでしたので、立見は結構辛そうでしたが…。
「罪と罰」も見たかったのですが、うっかりチケット発売を忘れていて、
結局見られなかった過去が…アホです…。
来月は、松たか子さんの舞台を初めて見に行きます!
お父さんとお兄さんはよく見ていますが、
彼女がどんな風に魅せるのか、とても楽しみです。
by 雛鳥 (2007-01-31 23:25) 

ねこ

こんにちは、通りすがりの者です。
気になってた「ロープ」の記事を拝見して、思わず書き込んでしまいました。
「ロープ」、途中までしか話を知りませんでしたが、「ミライ」ってそういうことなんですね。それは英語だと My Lai とつづられる村です。
Four Hours in My Lai という本を読んだことがあるので、
実在のこととお伝えしたくなってしまいました。
野田さんはアンテナの広がりがすごいですね。

雛鳥さまの記事も大変興味深く読ませていただきました。
また時々寄らせていただきますね。
by ねこ (2007-02-02 20:26) 

柴犬陸

>嫌いだから見ない、嫌いだから知ろうとしない、
>しかしそれでは、そのものの本質を理解できないままです。
この言葉は、私にそのまま当てはまります。
私にとっての、NODA・MAPは「オイル」で始まり、そのまま止まっています。
この芝居が、私にはとても図式的に思えて、観客を選んでいるという思いが付きまといました。
今回、雛鳥さんのレビューを読んで、はっとする思いがありました。
>しかし、今更手遅れ、ということはありません。
この言葉に感謝しています。
次は、NODA・MAP観てみようかな、そう思いました。
by 柴犬陸 (2007-02-03 00:03) 

バニラ

これも評価が高い舞台ですよね。
いつも旬の舞台を欠かさない雛鳥さんはすごいなぁと思います。
わたしもこのお話、楽しい感じで終わるのかと思っていたのですが
実は重いテーマを抱えたお話しなのですよね。
きれい、楽しいというものだけではなく、こういう自分の中に
返ってくる舞台もたまには必要ですね。
by バニラ (2007-02-03 17:31) 

雛鳥

ねこさま
初めまして、ご訪問ありがとうございます!
ミライ村について、貴重な情報をありがとうございます。
知識がなかった自分が恥ずかしいです…。
本についても興味が湧きましたが、恐らく辛すぎて読み通せないと思います…。
実際の出来事と知り、この舞台の持つ意味の大きさを、更に感じました。
観賞時も観賞後も、大きなインパクトを与えられた作品です。
野田秀樹の才能も、改めてすごいなと感じました。
今後とも、よろしくお願い致します。

柴犬陸さま
こんばんは、nice!&コメント、ありがとうございます!
今回の舞台からは、色々と考えさせられる点が多すぎました。
決して楽しくなるような舞台ではありませんでしたし、
正直、もう一度見たいという思いはあまりありません…。
ですが、今回は強烈にメッセージを感じ取れてしまいましたので、
(そして自己考察し過ぎてしまいましたので…、)
色々と糧になる部分が多く、結果的に見られて良かったと思います。
柴犬陸さんの舞台記事も、今後も楽しみにしています!

バニラさま
数々のnice!&コメント、ありがとうございます!
幕が開いてからはしばらく笑いのシーンが続きましたので、
正直こんなに重いテーマが隠されていたとは、思いもしませんでした…。
おっしゃる通り、純粋に楽しめる舞台も良いですが、
良くも悪くもこうして印象に残る舞台を見るのも、必要なことだと感じました。
私は古典芸能以外の舞台を見なさすぎでしたので、
おもしろそうと思ったものはなるべく見ようと思い始めました。
結果的に、節操のないセレクトになってしまっていますが…(汗)。
by 雛鳥 (2007-02-03 22:50) 

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