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「コンタクト」 [観劇]

今月も舞台三昧の日々…(歌舞伎・文楽中心ですが)。
まずは劇団四季の「コンタクト」。

「コンタクト」は、三部構成のミュージカルです。
…ミュージカル、と言い切ってしまうのにも、抵抗はありますが…。
いわゆる歌って踊る舞台ではなく、どれもダンスが主体の、パワフルな舞台でした。
それぞれ別個のストーリーですが、テーマはタイトルそのものの「コンタクト」。
他人との接触が、各物語の主人公にとってどんな意味を持つものか、
三者三様の思いが、ドラマチックに演じられます。

PartⅠ「swinging」
【あらすじ】(公演チラシより)
時は18世紀。牧歌的な森の中、ピンクのドレスを着た若い貴婦人は、
召使が揺らすブランコに乗り、主人らしき貴族はその光景を眺めて楽しんでいます。
その様子はまるでフラゴナールの名画のよう。
ワインのボトルが空になると、女性は男性にボトルを取ってきてくれるように頼みます。
さて、彼がいなくなった後、貴婦人はどうするでしょうか?

…幕開けからこの話、少々面食らいました…。
これは大人のための物語です。
フラゴナールの「ぶらんこ」は、以前テレビで紹介されていた際に、
描かれている対象が、全て性的なものを暗示していると解説されていました。
真相はわかりませんが、その時の解説がぴったり当てはまる、何とも官能的な舞台でした。

奔放な貴婦人は、男性が行ってしまうと、召使と共にブランコに乗り、
二人で様々に抱き合い、揺れ続けるブランコから落ちないようにバランスを取りながら、
アクロバットのような動きを見せていきます。
この女性にとってのコンタクトとは、興味のない男性との接触よりも、
自分の心のままに、好きな男性と自由に恋愛を楽しむことなのでしょう。
あまり共感できる話ではありませんでしたが、ブランコを使ったダンスや技術には感心でした。

PartⅡ「did you move?」
【あらすじ】(公演チラシより)
1954年のニューヨーク。クイーンズのビュッフェ式イタリアン・レストランに、
マフィアのボスらしき男が、内気な妻を連れてやってきます。
「動くな」…夫はそう命じます。
そう、確かに妻は動きません。でもその心は…?

「店の人としゃべるな、店の人を見るな、動くんじゃねえ」。
横柄な夫は妻にそう命じ、料理を取りに席を立ちます。
夫がいなくなった数分間だけ、妻は自分の空想の中で自由でいられるのです。
彼女は想像の中で、現実の彼女が嘘のように生き生きとステップを踏み、
店中を駆け回り、密かに心惹かれている店員と、秘密の恋に耽るのでした。
想像はどんどんエスカレート、幸せな思いに浸りますが、
夫が戻ってくると、途端に現実に引き戻され、いつもの貞淑な女性になってしまいます。

自分の気持ちを決して夫に伝えることができない、即ちコンタクトを取ることができない、
その一方で、空想の世界では、自由に他者とコミュニケーションを取ることができる。
立場は違えど、人間が誰しも持っている悩みだと思います。
物語では、結局彼女は最後まで夫に本心を明かすことはできませんが、
果たして空想の中だけでも自由でいられる彼女を、肯定すべきか否定すべきか、
中々難しい感想を抱かせる物語でした。

店員やお客さんを交えて踊るダンスは、賑やかでとても楽しいものでした。
レストランの小道具を巧みに使い、一瞬にして華やかなダンスホールをイメージさせる演出は、
見ていてもとても楽しいです。
この三部作では、各章に登場する女性のドレスの色が、重要なコンセプトになっていますが、
今回の女性のドレスの色は、鮮やかな青でした。
劇中、夫が一度だけ妻を褒めるのが、このドレスです。

PartⅢ「contact」
【あらすじ】(公演チラシより)
舞台は1999年ニューヨーク。主人公は広告代理店の若い重役。
一見、地位も名誉も手に入れた幸せな男に見えますが、
表面的な人間関係や、仕事に追われて生きることへの虚しさを感じ、
孤独感から自殺を図ろうとします。
その混乱の中で彼が出会った女性とは…?

傍から見ると、人生に成功しているかのような男性も、
本当の意味で、他者とコンタクトを取ることができないのです。
仕事は順調、友達もたくさんいる、周囲からも信頼されている、
何不自由ない生活を送っているのに、漠然とした不安や孤独を拭いきれない…。
これもまた、現代に生きる人であれば、誰しも経験したことがある感情だと思います。

夢か現か、自殺に失敗した彼は、誘われるようにして一軒の店へ入りますが、
そこには夜な夜なダンス好きの若者が集まり、熱いダンスが繰り広げられるのです。
そして出会ったのが、ダンサーたちの中でも一際美しい、黄色いドレスを着た女性。
一目惚れ、又は特定のパートナーのいない彼女に、自分と同じ孤独感を見出したのか、
彼はなんとかして、彼女をダンスに誘いたいと思い始めます。
しかしこの彼、実はダンスが苦手だったのです…。

お節介な店のマスターの後押しを受け、彼が彼女をダンスに誘おうとする様子は、
じれったさに顔を背けたくなるも、思わず応援してしまいます。
実は口下手な彼が、初めて他者ときちんと向き合おうとする姿は、
自分の中の醜い部分を見ているようで、恥ずかしくもありますが、
現代社会に生きる上で、大切なことを気付かせてくれるようでもあります。

本当の自分を曝け出すのには、大きな勇気が必要ですが、
ひとたび勇気を出せると、その後の人生は大きく変わります。
簡単だけど難しく、普段私たちが忘れがちなことを、改めて思い出させてくれました。

この物語は、重要な要素は全てダンスで表現されます。
ステージ全体を使った迫力あるダンスシーンは圧巻、
とりわけ黄色いドレスの女性の美しさとしなやかさには、目を見張るものがありました。
ダンスが主体のミュージカルでも、きちんとストーリーが成立しており、
見ていて本当に楽しいものでした。

ところでこの3部作を通して、第三部の主人公だけ名前が付いています。
名前があることで、この人物の具体性が高まり、より現実味を感じさせ、
この物語が万人に共通していることを暗示させます。
ほんの少し勇気を出せば、人生は明るく変わって行く、
その勇気を手に入れるのは、案外簡単なことなのかもしれません。

                               (観賞日:2007年2月3日)

(上記掲載写真は全て公演チラシより拝借致しました。)


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コメント 9

こんにちは!
「コンタクト」面白そうですねぇ。
しかも、NYが舞台になっているところに惹かれます(^^)
やっぱり観劇っていいですよね~♪最近行ってないなぁ(-.-)
by (2007-02-12 07:09) 

バニラ

ダンスがいいということは音楽もすてきなんでしょうね。
一緒に体が動いちゃう感じ?
by バニラ (2007-02-12 19:17) 

d+

こんにちは。
ミュージカルもまだ見たコトがありませんが、最近興味が出てきました♪
ダンスがメインだと、凄い熱気がありそうですね。
劇団四季というと、汐留の四季劇場でしょうか??
観劇後はつじりとかめちゃくちゃ混みますよね(^^ゞ
by d+ (2007-02-13 13:57) 

雛鳥

ピヨコさま
こんばんは、nice!&コメント、ありがとうございます!
舞台はニューヨーク、明るく賑やかでおしゃれなイメージでした。
いつかブロードウェイでミュージカルを見るのが夢です。
本場にいらっしゃるなんて、羨ましい…。
…しかし、念願叶って行けたとしても、言葉を理解できないとダメですね…。
道のりは遠いです…。

バニラさま
こんばんは、nice!&コメント、ありがとうございます!
3部作それぞれでテーマが違い、音楽もそれに合わせて変わっていました。
見ていると、自分も踊れたらいいのに…とつい思ってしまいます。
あれだけ踊れると、さぞ気持ち良いんだろうなあ、と…。
最後の作品のクライマックスで流れたのは、「Sing Sing Sing」、
私が今回、唯一知っている曲でした。

オレンジさま
こんばんは、nice!&コメント、ありがとうございます!
ミュージカルは見始めると、止まらなくなります…。
普通の舞台よりも楽しさを体感できるので、とても充実した気分を味わえます。
今回の劇場は浜松町の「秋」でしたが、汐留の「海」もキレイで好きです。
終演後、カレッタ内のレストランは、激混みです…。
半券提示で割引になるところが多いのは、嬉しいサービスです。
by 雛鳥 (2007-02-13 22:39) 

『コンタクト』は観たことないですが、雛鳥さんのレビューを読んで
観たくなりました♪
パワフルなダンスだけで観る人に感動を与えられるってステキですね。
それにしても黄色いドレスの女性の筋肉、こちらもステキです。
by (2007-02-13 23:03) 

雛鳥

makimakiさま
こんばんは、nice!&コメント、ありがとうございます!
正直「コンタクト」は、想像していたものとは違うミュージカルでしたが、
ダンスをメインに据えても、きちんと物語として成り立つおもしろさが、
見応えがあってよかったです。
黄色いドレスの女性は、今回は写真とは別な方が演じられていましたが、
ダンサーの肉体のしなやかさに、ちょっとびっくりでした…。
by 雛鳥 (2007-02-13 23:51) 

TaekoLovesParis

これ、2002年にニューヨークでの初演で見ました。
ユニークな3部構成ですよね。踊りのすばらしさ、ダンサーの美しさに
酔いしれました。
by TaekoLovesParis (2007-02-14 01:42) 

こんにちは~。最近、生のダンスも、生のミュージカルも見ていないので、
四季のダンスのうまさは定評があるし、ダンスがメインで色々表現されている世界を見たくなってきましたよ~♪
by (2007-02-14 14:33) 

雛鳥

Taekoさま
こんばんは、nice!&コメント、ありがとうございます!
本場ニューヨークで、しかも初演を見られたなんて、さすがですね!
2002年ということは、それほど古い作品ではないのですね。
(プログラムを買った割りにはよく読んでおらず、また最後の物語が、
99年というところからして、そんなに古くないことは想像できましたね…。)
リズミカルに美しく踊るダンサーの皆さんは、本当にすごいなと思いました。
私もいつか、ブロードウェイで観賞してみたいです…。
クライマックスなんかは、本場の公演ではきっとすごい迫力なのでしょう…。

あやっぴぃさま
こんばんは、nice!&コメント、ありがとうございます!
四季の舞台は、一度見始めると、どんどん見に行きたくなるので不思議です。
ミュージカルやダンスの舞台は、単調さがあまりないので、
普通に見ているだけでもとても楽しいですし、
音楽に乗れれば、舞台と一体感を感じることができます。
四季の作品はお子さんも楽しめるものも多いですので、
機会がありましたら、是非息子さんとご覧になられてみて下さい!
by 雛鳥 (2007-02-15 00:38) 

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