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「朧の森に棲む鬼」 [観劇]

     

本年最初の舞台観賞は、新橋演舞場にて「朧の森に棲む鬼」。
市川染五郎と「劇団☆新感線」とのコラボレーションによる「新感染」、
「いのうえ歌舞伎」シリーズ最新作です。

【主なキャスト】(敬称略)
ライ…市川染五郎
キンタ…阿部サダヲ
ツナ…秋山菜津子
シュテン…真木よう子
シキブ…高田聖子
ウラベ…粟根まこと
サダミツ…小須田康人
イチノオオキミ…田山涼成
マダレ…古田新太

【あらすじ】
主人公・ライは、野心に満ち溢れた男。
嘘や出任せを次々と繰り出す口先と、弟分・キンタの喧嘩強さを武器に、
世の中を上手く渡り歩いてきました。
ある時ライは不思議な朧の森で、魔物・オボロに出会います。
オボロはライがその器であるなら、望むものを手に入れさせようと約束します。
ライの望みは、国王の座、しかしそれと引き換えにオボロが求めたのは、ライの命。
オボロはライの口と同じ速さで動く剣を与え、次に現れる男を殺し、入れ替わるよう命じます。

オボロが消えた後、ライとキンタの前に現れたのは、エイアン国の将軍・ヤスマサ。
エイアン国と隣国のオーエ国は、長い間争ってきましたが、
エイアン四天王の一人ヤスマサは国を捨て、オーエ国側に寝返ろうとしていたのでした。
そうとは知らず、オボロの剣であっさりヤスマサを殺してしまうライ。
そこへやって来たのは、ヤスマサを待っていたオーエ国の女党首・シュテンと取り巻きたち。
ライは咄嗟に自分が本当のヤスマサであると嘘をつき、シュテンたちを信用させます。

エイアン国へ入ったライとキンタは、悪党たちを取り仕切るマダレに会い、
国を乗っ取る計画を持ちかけ、金を渡します。
マダレはこれを了承、ふたりはひっそりと手を組みます。
その一方でライは、エイアン国の検非違使を司り、ヤスマサの妻でもあるツナへ、
戦死したヤスマサから妻を守るよう命じられたことを騙り、ツナの信用をも得ることに成功します。
ライは更に宮中へ参上、頼りないオオキミに辟易していた妃のシキブにまで取り入り、
シキブの情愛までも手に入れます。

ヤスマサ亡き後のエイアン国は、他の四天王・ウラベ、サダミツ、ツナが頼り。
しかしそこへ急に現れ、重臣たちの信頼を得るライに、不信を抱くサダミツ。
密使を使いライの動向を探った果てに、とうとうライとマダレの企みを見抜いたサダミツは、
オオキミの前でその真実を暴こうとしますが…―。

                 ***

「新感線」の舞台は初めてでしたが、まず驚いたのは、演出の派手さ加減。
必要以上の大音量で鳴り響くロック、おどろおどろしい朧の森が描かれた幕、
派手な立ち回りに、水を使用した舞台。
「いのうえ歌舞伎」と言うからには、歌舞伎の舞台演出が頭にありましたので、
あまりの違いに驚きました。
「歌舞伎」とは銘打っていても、全く別モノです。

ストーリーは、「酒呑童子」と「リチャード三世」が下敷きになっているようで、
登場人物たちの名前も、「酒呑童子」の登場人物になぞらえられています。
ライは根っからの極悪人、優しい面もあるかと思えば、全ては悪巧みの一環。
歌舞伎の「河内山」や「髪結新三」のような、どこか憎めなさがあればまだしも、
嫌らしく、汚いことこの上ない…。
普通ここまで嫌な奴が主人公だったら、嫌な話になるだろうなあ…と思いましたが、
あまりの極悪さに、悪巧みが成功すると却って小気味良く、
染五郎の風体も、粋な感じがしました。
歌舞伎の舞台で魅せる凛々しさとは別な、柔軟さが表れていました。

しかし、私の心を惹いたのは、阿部サダヲと古田新太。
特に阿部サダヲは、本当におもしろい!
腕に自信はあるけれど、頭の回転はイマイチなキンタという役の持つ純粋さを、
コミカルに親近感たっぷりに演じ、わざとらしさがないので、すんなり受け入れられました。
劇中では歌もあり、軽くミュージカル仕立ての場面もちらほら。
音楽活動もしているのに失礼ながら、阿部サダヲの歌は正直上手いと思えませんでしたが(…)、
劇場を大いに沸かせ、笑わせてくれるサービス精神には感服です。
ライを「兄貴」と慕うキンタの、後半の立ち回りは、中々人情味があり良かったです。
また、古田新太のどっしり構えたマダレという役は、彼に適役でした。
決して派手な役ではないのに、誰よりも存在感があり、こちらも悪人なのに思慮深さも感じられ、
どことなく不気味な雰囲気まで醸し出し、さすがでした。
マダレは物語の終盤、重要な役を担うことになりますので、
それを予感させるようなミステリアスな雰囲気を、登場シーンから上手く持っていたのでしょう。
…因みに、このお二人の出演作「木更津キャッツアイ」を、私は一度も見たことがありません。
と、以前人に話したところ、「人生の楽しみが残っていて羨ましい」と言われました。
…そんなにおもしろいのでしょうか?

そんな中、女性陣も中々良かったです。
特にツナ役の秋山菜津子さん、昨年「タンゴ・冬の終わりに」でも名演でしたが、
やはり今回も素敵でした。
元々きれいな方ですが、感情をあまり露わにせず、しかし内に秘めた情熱を確かに感じさせ、
猫のように身軽でしなやかに動き回る姿から、更なる美を感じさせられました。
美しい上に演技もお上手な秋山さんの舞台を、もっと見たいと思いました。

舞台構成は無駄がなく、若干展開が早いと思う場面もありましたが、違和感はなく、
何より迫力とスピード感がありますので、見ているうちにどんどん舞台に引き込まれていきました。
「新感線」の舞台は、「阿修羅城の瞳」が映画化されていますが、
今回も映像化されるとどんな風か、興味が湧きました。
(…しかし、水や光を効果的に使った演出は、限られた舞台でいかに臨場感を出せるか、
その技術を大いに知らしめてくれましたので、映像化されることにより、
却って期待外れな部分も出てくるのかもしれません…。)

新年早々、おもしろい舞台を堪能でき、今年の幸先の良さが期待できそうです。
今年も色々なものを見、その場でしか味わえない感覚を、肌で感じ取って来たいと思います。

…しかし、今回一点だけ、納得できないものが…。
舞台や映画、展覧会に行ったときは、必ずパンフレットや図録を買うようにしています。
今回のような公演ですと、パンフレットは大抵¥2,000弱程度なのですが…、
演舞場限定販売なのか、パンフレット販売は全てカレンダー付¥3,000…。
…カレンダー、正直不要です。
いらないので安くして下さい、とは、きっと私以外にも思う方が多数いらっしゃることでしょう。
買おうかどうか結構悩みましたが…舞台がおもしろかったので、結局購入…。
自室には既に文楽劇場カレンダーを下げておりますので、これをどうしよう…というのが、
目下の悩みの種です…。
さすがに捨てるのは忍びないし…。

                                       (観賞日:2007年1月7日)


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柴犬陸

「朧の森・・・」、私は初日に観ています。
夫が、新感線ファンなので、年に数本は観ている計算です。
「天保12年・・」も新感線バージョンが気に入っています。
大音量が新感線の特徴でもありますが、今回はそれほどに感じませんでした。慣れてしまっているせいかもしれませんが。
分かりやすい筋立てで、面白かったですね。
パンフレットの不満もよく分かります。
新感線のものは、いつも高額だという印象です。(買いましたが)
カレンダー、使いませんよね。ちょっとオドロオドロシイし、ね。
私の記事は以下に↓、ご参考まで。
http://blog.so-net.ne.jp/riku-log/2007-01-04
by 柴犬陸 (2007-01-13 01:55) 

バニラ

面白そうな舞台ですねぇ。
いつもながら、感心する雛鳥さんの上手な解説と適切な感想に
半分観たような気分にも...
わたしも今日は日フィルのコンサートです。
久々で、今年最初の演奏会なのでとっても楽しみです。
by バニラ (2007-01-13 08:47) 

「朧の森に棲む鬼」、行かれたのですね〜。実は私も今度の土曜日に観劇予定です。「SHIROH」「アテルイ」「阿修羅城の瞳」(映画版)はDVDまで持ってたりするのですが(結構染五郎さんファンです)、「新感線」の舞台を生で観るのは雛鳥さんと同じく初めてなのでとても楽しみにしています。しかし、パンフがカレンダー付きで3000円とは!ほんとカレンダーいらないです〜。
by (2007-01-13 21:27) 

TaekoLovesParis

新感線のことも、この舞台のことも知らなかったのですが、染五郎と
リチャード3世はなじみがあるので、雛鳥さんの記事を読みながら、
舞台をイメージしていました。詳しく書いてくださっているので、見てない
のに、少しだけ、ふれたような気がしてきます。
今年も観劇記録、楽しみにしていますから。
by TaekoLovesParis (2007-01-13 23:16) 

はじめまして!私は新感線歴10数年になりますが(笑)、
今回同じようにカレンダーは納得がいきませんでした。
選ばせてくれ、と。
選ばせていただけたら、半額でパンフレットのみ購入しちゃいますけど(笑)
by (2007-01-14 16:18) 

雛鳥

柴犬陸さま
nice!&コメント、ありがとうございます!
遅ればせながら、本年もよろしくお願い致します。
初日に行かれたんですね。年が明けたばかりのおめでたさが伝わります。
私は今回が初の新感線でしたが、もちろん数々の驚きはあったものの、
正直なところ、想像よりは大人しめかな、と…。
普段はもっとすごいのでしょうね。
「天保12年~」、新感線バージョンもあるんですね!
蜷川版は、チケットが取れず見られなかったのです…(涙)。
未だに悔しさを引き摺っています…。
新感線の舞台も、今後見ていきたいと思います。
カレンダー、未開封です…。袋も大きくて、帰り道引き摺っていました。

バニラさま
nice!&コメント、ありがとうございます!
初めてのものを見に行くときは、とにかく期待感でいっぱいですが、
たまに外したりしますと、がっかりさも倍です…。
しかし、今回は期待以上におもしろかったので、大満足でした。
フィルハーモニー、いかがでしたか?
オーケストラコンサートも、興味はあるのですが、未知の世界です…。
聴いていて気持ちの良い音楽は、やはり素敵ですね。

jkさま
nice!&コメント、ありがとうございます!
すみません、観劇のご予定でしたのに、あらすじ載せてしまいました…。
(もちろん、まだまだおもしろいことはたくさん起こります!)
DVDお持ちというのには驚きました。
でも「SHIROH」や「アテルイ」は、私も見てみたいと思っています。
ご観劇、是非楽しんできて下さい!
カレンダー付きパンフレットは、かなり微妙ですが…。

Taekoさま
nice!&コメント、ありがとうございます!
幸四郎・染五郎親子とシェイクスピアは、イメージしやすいですよね。
(過去の作品履歴からですが…。)
悪役染五郎も、中々良かったです。
普段、歌舞伎ではわりと二枚目色男役が多いので、新鮮さがありました。
こちらこそ、いつも粗末な記事にコメントをありがとうございます!
既に観劇予定は結構入っていますので、ご紹介していきたいと思います。

Peridotさま
はじめまして、ご訪問ありがとうございます!
新感線暦10年!すごいですね…!
私は今回が初めてで、おもしろさを十分感じることができましたが、
もっと他の作品も見たい欲求が沸いてきましたので、
今後も見続けたいと思っています。
パンフレット、普通は選択肢がありますよね…。
主催者側のサービスなのか、利益的なものなのか、いまいちわからないです。
選べるのなら、私も当然パンフレットのみ購入です(笑)。
by 雛鳥 (2007-01-15 00:22) 

きゃ~。このキャスティングに、見たい~!って、正月の新聞広告と劇評で騒いでいたのは、私です^0^
古田さん、いいですよねぇ。昨年以来ご贔屓。染五郎さんも、サダヲさんも、はああぁ~。(行けないもののため息)
パンフレット、お気持ち分かります。カレンダーまではいらないんですよねっ!
by (2007-01-15 11:27) 

雛鳥

あやっぴぃさま
こんにちは、nice!&コメント、ありがとうございます!
この舞台、意外と話題で少々驚いています。
キャストが豪華なこともあり、私のような新感線初心者にも、
すぐに入り込めるところがあり、よかったです。
染五郎さんは、10年程前から歌舞伎座で見ていますが、
失礼ながら、随分と成長されてきているのがわかります。
今年もますます魅せる役者になって下さる様、期待しています。
by 雛鳥 (2007-01-16 11:49) 

あんこ

はじめておじゃまいたします。柴犬陸さんに教えていただきました。
作品には満足したのですが、私もパンフに附属のカレンダーを持て
余しています。あんなにデカくて恐ろしいもの飾る人いるのか…?
最近の新感線作品はTV放映もなくDVDを買うしかないというのは
いつも商売上手だなと思います(さすが大阪)
古田&阿部の「木更津~」ももちろんいいですが、二人が出演
している「ぼくの魔法使い」もお勧めですよ。
DVDも出ています。
by あんこ (2007-01-18 03:12) 

雛鳥

あんこさま
こんにちは、ご訪問ありがとうございます!
カレンダー…やはりいらないですよね…。
私は劇場の見本を見たきり、開封していません。
夜中とか見ると怖そうですよね…。
ネットオークションを検索してみましたら、結構出ていました。
しかも、入札も付いてました…欲しい人は欲しいんですね。
「ぼくの魔法使い」は「みったん・るみたん」ですよね?
見たことないのですが、妹が大好きで、話を聞かされました。
是非まとめて見てみたいと思います!
by 雛鳥 (2007-01-18 21:18) 

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