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「タンゴ・冬の終わりに」 [観劇]

     

人気の公演は、先行発売でもチケットが取れないことが多々ありますが、
今回の「タンゴ・冬の終わりに」は、Bunkamuraのメールマガジンを取っていたお陰で、
メルマガ読者限定の先行発売で、チケットを手に入れることができました。
しかし、既にS席は予定枚数終了…。
やむを得ずA席を取りましたが、それにしてもいちばん端の席…。
先行発売と席の良し悪しに関係はないのか?と、疑問に思いました。

堤真一ファンの友人に羨ましがられながら、行ってきました。

【あらすじ】(公演パンフレットより)
日本海に面した町の古びた映画館、北国(ほっこく)シネマ。
清村盛は有名な俳優だったが、3年前、『オセロー』の舞台を最後に突然引退して、
今は妻ぎんとともに、弟・重夫が経営する生まれ故郷の映画館でひっそりと暮らしている。
ある日、北国シネマにかつての俳優仲間であった名和水尾と、
彼女を追ってきた夫・連がやってくる。
今や演劇界のホープとして活躍している水尾は、かつて盛と激しい恋に燃えていた。
彼女は突然姿を消した盛に思いを残したまま女優として歩み始め、
過去を棄てるため連と結婚したのだった。
そんな水尾のもとに、盛から「ぜひ会いたい」という手紙が届き、こうしてやって来たのだった。
しかし彼女の目の前に現れたのは、すっかり狂気にとりつかれてしまった男の姿だった……。

【主なキャスト】(敬称略)
清村盛(きよむらせい)…堤真一
盛の妻・ぎん…秋山菜津子
盛の弟・重夫…高橋洋
名和水尾(なわみずお)…常盤貴子
名和連(なわれん)…段田安則

幕が上がった瞬間…いや、幕が上がる前からびっくりしました。
いきなりの叫び声…。「え?何??」と戸惑っているうちに場内が暗くなり、
演出だと気付くまでに、10秒ほどかかりました。
そして幕が上がると舞台上には、客席を向いた客席、そこに詰め掛ける多くの人々、
しかも皆が狂ったように泣き叫び、揉みくちゃになりながら、
映画(「イージー・ライダー」らしい)のエンドクレジットを見ているようです。
「ああ、舞台は映画館だっけ」と思っているうちに、
スローな動作で、観客がひとりふたりと劇場を後にし、誰もいなくなったところで本編の開始。

自らの意思で役者を廃業したはずの盛は、それ以来精神を病んでいきます。
ゆっくりと、しかし確実に悪化の一途を辿る盛に、もはや成す術の見つからないぎんは、
盛に扮して手紙を書き、盛のかつての恋人・水尾を呼び出します。
事実を知った水尾、水尾を追いかけてきた夫の連は、さすがに怒って帰ろうとしますが、
既に自分のことを覚えていなくても、昔愛した男を放っておけない水尾は、
計らずも盛との思い出を、彼自身に語ることとなります。

水尾との逢瀬を、何一つ思い出さず、淡々とアドバイスを続ける盛、
傍から見ると、その落ち着きぶりと強固な口調から、
決して精神を病んでいるようには見えません。
むしろ生き生きと、状況を楽しんでいるようにも思えます。
しかし、物語が終盤へと進むに連れ、盛の幻覚がエスカレート。
盛にしか見えない、子供時代の思い出の瞬間、幼い頃亡くした姉の最期の姿、
そして、学校から盗んだ孔雀。
それら幻想と現実との境目があいまいになり、盛は自分を見失っていくのですが、
この難しい清村盛役を演じた、堤真一さんが本当に素晴らしかったです。
苦悩、安堵、焦燥と、めまぐるしく変わる盛の精神状態を、様々な表情と行動で表現し、
更に以前は役者だったという役柄、舞台の台詞を口にする場面では、
仰々しいまでの格好良さで、役者としての盛もまた、見事に演じられていました。
私の友人でなくとも、これは堤真一ファンになってしまいます…。

一方、相手役の名和水尾を演じた常盤貴子さんですが、
テレビで彼女の美貌は見知っていたとは言え、舞台に立たれると透明感のある美しさに溢れ、
今やトップ女優となった名和水尾を、若々しく華やかに演じられていました。
初舞台を踏まれたのは昨年とのことで、舞台経験はまだ浅いようです。
台詞回しが若干気になった場面もありましたが、とにかく表情が良かったです。
水尾の衣装は白が基調でしたが、前半で着ていたファー付きのコートが上品でかわいく、
常盤さんにとても似合っており、私も同じものが欲しくなりました…。

物語上、もうひとり重要な役を担う女性、ぎん。
ぎんもかつての盛の役者仲間のようです(因みに水尾の夫・連も過去は役者だったようです)。
盛を愛し、優しいながらも時には厳しく、献身的に盛を支え、励ます姿に感動でした。
しっかりした頼れる女性ですが、時折見せる弱さが儚く、つい感情移入してしまいそうでした。
演じる秋山菜津子さんは、凛とした美しさの漂う、落ち着いたきれいな方でした。
かわいらしい水尾とは対照的に、地に足が着いているような力強さが感じられました。

シリアスな物語の中、人間関係や物語自体を中和させていたのが、名和連役の段田安則さん。
テレビでお見かけすると、おもしろい方との印象が強かったのですが、
今回もやはり、おもしろい方でした。
頼りないながらも、彼なりに必死に水尾を愛し、不器用でもまっすぐに進む姿に好感です。
盛の弟・重夫とのやりとりは可笑しく、場をほっと和ませる雰囲気がありました。
もちろんおもしろいだけではなく、わざとらしさのない自然な演技が、とても良かったです。

また、毬谷友子さんが、映画館の下働きの女性として登場していました。
彼女の舞台は一度だけ見たことがありましたが、ふんわりした女性のイメージから、
一転、田舎の野暮ったい女性役で、最初は驚きましたが、
なるほどこうした役も似合うなあと、密かに絶賛してしまいました。

今回、蜷川幸雄さんの演出には、色々と驚かされました。
前回の「あわれ彼女は娼婦」が、かなり大人しめだったことがわかりました。
オープニングとラストの映画館の観客は、とにかく人数で迫力でしたが、
盛が見る幻の人物たちの登場の仕方や、ラストに効果的に使われた孔雀と、
「なるほど、これが蜷川ワールドか…」と、妙に納得させられるものがありました。
あまりにもインパクトが強く、とにかく印象に残る舞台になりました。

                                     (観賞日:2006年11月8日)


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TaekoLovesParis

なかなかおもしろそうですね。ちらしの写真で一番前が常盤貴子ですか?
ちょっと違って見えるので。。
蜷川演出、堤真一、段田安則、木村佳乃の平将門を昨年見たのですが、幕があくと舞台が全部階段になっている。急。そして上から石がガラ
ガラ落ちてくる。すごい迫力でした。
シリアス+ロマンのお芝居なんですね。
by TaekoLovesParis (2006-11-17 02:30) 

雛鳥

Taekoさま
こんばんは、nice!&コメント、ありがとうございます!
チラシの写真は、ちょっと皆さん変わって見えますね。
この写真とは全く異なる趣向の舞台でしたが…。
「将門」、是非私も見たかったです!おもしろそうと思っていました…。
「タンゴ~」は20年前に平幹二朗さん主演で上演されたようですし、
イギリスではアラン・リックマンが主演だったようです。
様々な歴史を辿っているのに、演出の斬新さはさすが蜷川幸雄でした。
by 雛鳥 (2006-11-17 23:49) 

TaekoLovesParis

いろいろ教えてくださってありがとうございます。
<タンゴ~」は20年前に平幹二朗さん主演で上演されたようですし、
イギリスではアラン・リックマンが主演だったようです。>
→そうだったんですか。定番のお芝居なんですね。ハリポタのスネイプ先生のアラン・リックマンは舞台出身なんでしょうか。
このちらしは皆黒い衣装で、稽古のときかもしれませんね。
by TaekoLovesParis (2006-11-18 22:15) 

雛鳥

Taekoさま
再びのコメント、ありがとうございます!
初演は1984年、その2年後に再演、そして1991年にイギリスでの上演と、
当時はかなり人気の高かった舞台のようです。
(…あまり詳しくなく、今回初めて知ったのですが。)
原作は、「将門」と同じく清水邦夫さんだそうです。
アラン・リックマンは、私もスネイプ先生のイメージが強いですが(苦笑)、
繊細でスマートな魅力を持つ盛役は、適役だと思いました。
by 雛鳥 (2006-11-19 16:02) 

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