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「あわれ彼女は娼婦」 [観劇]

待望の、蜷川幸雄さん演出の舞台、「あわれ彼女は娼婦」を見ることができました。
劇場は、Bunkamuraシアターコクーン。
私は先行発売でチケットを手に入れることができましたが、
一般発売では開始と同時くらいに売り切れる盛況ぶり、
当然満席で、コクーンシート後ろには、立見のお客さんで溢れていました。

ストーリーは、以下、公演チラシを抜粋します。

『中世のイタリア、パルマ地方。
勉学に優れ、人格的にも非の打ち所がないと将来を嘱望されるジョヴァンニは、
尊敬する神父に、自分の心を長く苦しめてきた思いを打ち明ける。
それは、妹アナベラを女性として愛しているという告白だった。
神父は叱責するが、ジョヴァンニは鎮まらず、アナベラに気持ちを伝えてしまう。
すると彼女もまた、兄を男性として愛していた。
ふたりは男女として結ばれるが、幸福な時間は続かず、やがて妊娠が判明。
カモフラージュのために、アナベラはかねてから求婚されていた貴族のソランゾのもとに嫁ぐが、
ソランゾは彼女の不義を見抜き、怒り狂う。
そして、お腹の子供の父親が妻の実の兄であることを探り当てるのだが…。』

街でいちばんの明晰な頭脳を持つ兄と、街でいちばんの美女である妹。
母親を亡くしてはいるものの、富と名誉を手に入れている父と優しいばあやに囲まれ、
傍から見れば恵まれた一家の、幸せな風景。
しかし、一旦歯車が狂い出すと、今まで築き上げてきたものが、あっさりと崩れ落ちて行く様を、
まじまじと見せ付けられ、精神的に迫る勢いのある、濃密な舞台でした。

物語は、この他様々なクセのある人々により、複雑な展開を見せつつも、
悲しい結末へ向かって、進行して行きます。
ソランゾの従者で忠誠を示すヴァスケス、
このヴァスケスに取り入り、ソランゾへの復讐を誓う、元不倫相手のヒポリタ、
ヒポリタの夫で世間的には死んだことになっているが、密かにヒポリタへの復讐を狙う、
偽物の医者・リチャーデットと、両親を亡くしたリチャーデットの姪・フィロティス。
頭脳が弱く、金持ちの叔父の言いつけ通りアナベラに求婚するバーゲット、
天真爛漫なバーゲットに振り回されつつも、共に楽しむ従者のポジオ。
アナベラに求婚し、ソランゾとは天敵のローマ貴族・グリマルディ、
そしてローマ教皇使節の枢機卿と、ジョヴァンニが信頼を寄せる神父のボナヴェンチュラ。
フィロティスに出会ったバーゲットは、自らの意志で彼女を愛し、結婚を許されますが、
ソランゾと間違われ、グリマルディに殺されてしまいます。
しかし、枢機卿の保護下に置かれたグリマルディに、罪を問うことはできません。
一方、ソランゾとアナベラの結婚パーティーに紛れ込み、ソランゾへ復讐しようとするヒポリタは、
逆にヴァスケスに企みを暴かれ、無念のまま死を迎えます。
物語の軸となる部分以外にも、様々な糸を張り巡らせた、濃い内容でした。

主なキャストは、主人公のジョヴァンニは三上博史さん、
アナベラは深津絵里さん、ソランゾは谷原章介さんです。
実は、ここまでテレビで名前が知られている方々の舞台を見るのは初めてで、
テレビでのイメージが定着し、変に大衆的な舞台だったらどうしよう…と、
いらぬ心配をしていましたが、そんな懸念は全く必要なく、
本当に皆さん、素晴らしかったです。
三上さんは苦悩の表情が凛々しくも、自らの意思に従順なジョヴァンニを繊細に演じられ、
台詞や所作のひとつひとつに役者の魂が込められているようで、圧倒されました。
個性的な存在感がとにかく強く、どうしても目を引かれずにはいられませんでした。
深津さんは、綺麗な女優さんというイメージでしたが、アナベラはすごくかわいい女性で、
舞台に登場すると、そこから花が咲いていくかのような明るさがありました。
儚げながらも強さも併せ持ち、真の愛を貫こうとする姿勢に胸を打たれました。
主役二人と比べると、谷原さんは陰に隠れた感じになったように思えましたが、
したたかであくどく、自尊心が非常に強いソランゾを、嫌味なく力強く演じられていました。
もう少し、変わった個性があっても良かったかな、とも思いましたが。

蜷川さんの舞台は、一年前の歌舞伎座で「十二夜」を演出されたのを見て以来、二度目です。
歌舞伎の演出は普段の舞台とは違うとは思いますが、予想以上に「十二夜」がおもしろく、
絶対舞台を見に行きたい!と切望していました。
今回、念願叶って見ることができ、本当に嬉しかったです。
近親相姦というタブーを題材にしながらも、舞台上では常に荘厳な空気が漂っている、
不思議だけれど魅力に溢れた舞台は、素晴らしかったです。

人間の裡に渦巻く様々な感情を、どこまで露わにすべきか、我慢すべきか、
自分が自分であるために、最低限必要なものは何か、
そして、守るべきもの、失えないもの、確かにそこに存在するもの、
真の愛を見極める純粋な思いとは何か、疑問を投げかけられたようでした。
悲しみと感動とやるせなさ、そのような感情が自分の中で渦巻いているようでした。
本当におもしろい舞台を見ることができ、
蜷川さんと出演者の皆さんへ、感謝の気持ちでいっぱいになりました。


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あんこ

雛鳥さんの記事を読ませていただいて周辺の人物のことが詳しく
理解できました(今頃になって…(~_~;) )
今回の蜷川演出はアクが少なく控え目でそれもよかったと思います。
TV放映もあるそうですね。
by あんこ (2006-07-24 07:52) 

雛鳥

あんこさま
ご訪問、ありがとうございます。
今回の舞台に味を占めて、これから蜷川作品を、
出来る限り見に行こうと思いました。
もう一度見たいと思いましたので、テレビ放映は楽しみです。
by 雛鳥 (2006-07-24 23:50) 

柴犬陸

はじめまして、あんこさんのところで知りました。
私はちょうど、テレビ(wowow)収録日に観劇しました。
蜷川演出、当たり外れもありますが、やっぱり観てしまいます。

その時の記事、TBさせていただきました。
by 柴犬陸 (2006-07-29 10:32) 

雛鳥

柴犬陸さま
はじめまして。nice!&コメント、ありがとうございます。
テレビ収録日ですと、劇場の空気が引き締まっていそうで、
普段とは違った雰囲気に思えます。
蜷川さんの舞台は初心者ですが、
これからできる限り見てみようと思いました。
by 雛鳥 (2006-07-29 23:49) 

TaekoLovesParis

見た後で、かなり重い気分をひきづってしまったのは、それだけ
役者が上手だったんですよね。蜷川演出の舞台は大仕掛けな
時が多いけれど、今回は正統的な舞台装置でしたね。
深津絵里はマクベス夫人の時の大竹しのぶを彷彿させ、上手
だったと思う。人をひきつける力を持っていますね。
by TaekoLovesParis (2006-08-15 23:20) 

雛鳥

TaekoLovesParisさま
蜷川幸雄さんの舞台は、今回が2回目でした。
しかも前回は歌舞伎「十二夜」でしたので、
いつもの蜷川演出とは、異なっていたのでしょうか。
今回は、主演二人がものすごく良かったと思います。
繊細さ、儚さの中心を、確乎たる意志が貫いていたような、
力強さを感じさせられる舞台でした。
by 雛鳥 (2006-08-15 23:41) 

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